「海の京都とは」──海・風土・人が紡ぐ、もう一つの京都

はじめに:なぜ今「海の京都」なのか
京都と聞くと、寺社や町家が連なる“古都”のイメージが先に立ちます。一方で京都には、海とともに歴史が動き、人々の暮らしが育まれてきた日本海側の文化圏があります。それが「海の京都」と呼ばれる地域です。
近年この地域が改めて注目されている背景には、道路整備など交通基盤の進展によりアクセス環境が改善してきたこと、そして地域資源を“もう一つの京都”として発信する取り組みがあることが挙げられます。
このコラムでは「海の京都とは何か」を、歴史・自然・文化という複数の視点で整理し、観光ガイドでありながらも、地域理解の入口として客観的に紹介します。
「海の京都」とは何か:京都府北部の広域文化圏
「海の京都」は、京都府北部の日本海側に位置する福知山市・舞鶴市・綾部市・宮津市・京丹後市・伊根町・与謝野町(7市町)を中心に捉えた呼称です。古代から大陸交流の窓口として栄え、神話の舞台にもなった地域であることが、公式にも説明されています。
このエリアは、港町・城下町・里山など多様な顔を持ちながら、ヒトやモノが行き交う一つの生活圏として重なり合ってきました。“京都”という言葉が想起させる文化イメージを、南部(京都市内)だけで完結させない厚みが、ここにあります。
海が育む風土と暮らし:食・自然・伝統の三位一体

1. 自然:日本海と山々がつくる豊かな環境
日本海と丹波丹後の山々に囲まれ、海・里・山が近接する地形は、漁業・農業・林業など多様な生業が同じ圏内に成立しやすい条件になります。景観もまた、海岸線、湾、里山、河川、集落が折り重なるかたちで現れ、土地の個性を形づくってきました。
2. 文化:交流の記憶と、織物が支えた暮らしの厚み
「海の京都」は、古代より大陸交流の窓口として栄えた歴史を背景に、信仰や神話、技術や文化の重なりを蓄えてきました。
その象徴の一つが、日本遺産ストーリー「300年を紡ぐ絹が織り成す 丹後ちりめん回廊」です。ちりめん街道などの景観も含め、織物産業が暮らしとまちの姿を長期にわたって形づくってきたことが読み取れます。
また天橋立には、「丹後国風土記逸文」に基づく言い伝えとして、天と地を往来するための“梯子(はしご)”が倒れて地上に横たわり、細長い陸地になったという由来が語られています。史実の断定ではなく“伝承”として捉えることで、この地で自然景観が信仰や物語と結びついてきた経緯が理解しやすくなります。
3. 食:海の幸と大地の恵みが交わる食文化
海産物に恵まれる一方で、内陸には農地と集落が広がり、生活圏の中で海と里の恵みが交わることが、この地域の食の特徴をつくります。季節の魚介や海藻、野菜、米などが、日々の料理や地域の行事食として編み込まれてきました。
「海の京都」を体験する:地域を巡り、風土を感じる

▶ 宮津市:天橋立(景観と伝承が重なる象徴)
まず“海の京都”の入口として語られやすいのが天橋立です。景勝としての価値に加え、伝承や信仰の文脈も折り重なる場所として歩くと、見え方が立体になります。
▶ 伊根町:舟屋が残す「海と生活が地続き」の感覚
海辺の集落景観として名高い舟屋は、海と暮らしが一体だった文化のかたちを今に伝えます(写真映えだけでなく、生活文化としての視点が重要です)。
▶ 京丹後市:海岸景観と多様な生業の距離の近さ
海沿いの風景に加え、内側には集落や田畑が連なり、季節ごとの営みが“風土のリズム”として現れます。
▶ 与謝野町:丹後ちりめんの産業景観(ちりめん街道など)
産業がまちの姿をつくった例として、丹後ちりめん回廊の構成文化財を手掛かりに巡ると、地域文化の厚みが掴みやすくなります。
▶ 舞鶴市:港町としての記憶(海の玄関口)
海路の玄関口という性格を強く持ち、港を起点に地域の歴史を読み解く視点が持てます。
▶ 福知山市・綾部市:海側と内陸をつなぐ生活圏の奥行き
北部7市町が一つの生活圏として形成されてきたことを体感するには、内陸側(城下町・里山など)の要素も押さえると理解が深まります。
巡り方のコツは、「名所を消費する」よりも、「なぜこの景観・産業・暮らしがここに根づいたのか」を一段だけ掘ることです。移動の合間に港・集落・里山の“距離の近さ”に注目すると、この地域の輪郭が見えやすくなります。
海の京都を味わう:自然と調和した食の楽しみ
海の京都の食は、「日本海の旬の魚介」と「里の米・野菜・加工の知恵(発酵や保存)」が、同じ生活圏の中で自然に結びついているのが特徴です。ここでは“具体的に何が食べられるか”を、お伝えします。
▶ 冬の主役:カニ・ブリ・牡蠣・イカ
晩秋〜冬にかけては、間人(たいざ)ガニ/舞鶴かになどのカニ、伊根ブリ(刺身・ぶりしゃぶ)、真牡蠣、アオリイカ/ヤリイカが代表格です。
▶ 初夏〜夏の主役:岩牡蠣
5〜8月頃は、伊根湾で育てられた岩牡蠣など、“夏のごちそう”が強くなります。
▶ 通年で狙える:丹後ばらずし/へしこ/地酒
京丹後などでは、丹後ばらずしや、若狭地方発祥で丹後でも広く親しまれている魚のぬか漬け「へしこ」、地酒などが「その土地らしさ」を味わえる定番です。
おわりに:海・風土・人がつくる「もう一つの京都」
海の京都は、京都市内とは異なる文化的背景を持ちながら、古代から交流の窓口として栄え、多様な暮らしの積み重ねの上に現在があります。交通基盤の整備を追い風にしつつも、主役は地域の暮らしそのものであり、風土の中で育まれてきた文化の厚みがこの地域の本質です。
この地域を知ることは、日本海側の生活文化を理解するだけでなく、「自然と人間の距離」がどう形づくられてきたかを読み解くことにもつながります。“もう一つの京都”という言葉を、単なるキャッチコピーではなく、土地の歴史と暮らしの実感として受け取れる場所——それが海の京都です。

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