節分に日本酒を飲むのはなぜ?厄除けと「升(ます)」に込められた縁起の由来

はじめに:季節を分ける「節分」と日本酒の役割
2月3日の節分が過ぎ、2月11日を迎える頃、暦の上ではすでに「立春」となり、冬から春へと移り変わる時期にあたります。
節分とは本来「季節を分ける」ことを意味し、かつては立夏、立秋、立冬の前日も節分と呼ばれていました。しかし、厳しい冬を乗り越え、新しい一年の始まりを告げる立春の前日は特に重要視され、現代では「節分といえば2月」という認識が定着しています。
この季節の変わり目は「季節の境目から邪気が入り込みやすい」と考えられてきました。そのため、平安時代から続く「追儺(ついな)」などの行事を通じて厄を払う文化が育まれてきました。その中心にあるのが、米から造られる神聖な「日本酒」です。日本酒は古来より神事と深く結びつき、人々の心身を清める象徴として扱われてきました。
この日本酒の原料である米は、古くから生命力の象徴とされてきました。米を醸して造られる酒は、さらに強い霊力が宿ると信じられ、邪気を払う「お清め」の道具として重宝されています。節分の時期に日本酒を嗜むことは、体内に溜まった冬の滞りを流し、春を迎えるために心身を浄化するという意味を持っているのです。
なぜ「升」で飲むのか。言葉に込められた縁起と木の効能

節分の豆まきで豆を入れる器として使われる「升(ます)」ですが、日本酒を飲む器としても特別な意味を持っています。
まず語源として、「升」は「増す」や「益す」という言葉に通じ、福が増える、あるいは家運が隆盛するといった願いが込められています。四角い形状は、四方を守り、物事を円満に収めるという意味もあり、祝いの席には欠かせない器です。
また、升の素材として使われる杉や檜(ひのき)には、抗菌作用や清々しい香り成分が含まれています。この木の香りが邪気を遠ざけ、その場を清める「結界」のような役割を果たすとも言われています。日本酒を升に注ぐと、酒本来の香りに木香(きが)が重なり、より重層的な味わいを楽しむことができます。酒造メーカーの視点で見ても、升は日本酒の持つ「文化的な奥行き」を最も引き立てる器の一つと言えるでしょう。
升酒を格段に美味しくする、正しい作法と楽しみ方
日本酒を飲み始めたばかりの方にとって、升酒は飲み方に迷うものかもしれません。しかし、基本を知ることで、その立ち振る舞いはより洗練されます。
まず持ち方ですが、親指を縁にかけ、残りの4本の指で底を支えるのが安定した美しい持ち方です。飲む際は、四隅の角からではなく、平らな面(辺)に唇を軽く当てて吸い上げるように飲みます。これは、角から飲むと酒がこぼれやすいため、実利的な側面からも推奨される作法です。
さらに、升の角に少量の「塩」を乗せて、それを舐めながら酒を味わうスタイルもあります。塩は古来より強力なお清めの道具であり、日本酒の甘みを最大限に引き出す調味料でもあります。特にミネラル分の多い天然塩を選ぶと、日本酒に含まれるアミノ酸の旨味と絶妙に調和し、より深い余韻を感じることができます。
知っておきたい、使用後の升の手入れと保管の心得
せっかく手に入れた升を長く楽しむためには、使用後の手入れが肝心です。
木の升は非常に繊細で、扱い方を間違えると香りが飛んだり、ひび割れの原因になったりします。 使用後は、洗剤を使わずにぬるま湯や水でさっと洗い、乾いた布でしっかりと水分を拭き取ってください。その後、風通しの良い日陰で十分に乾燥させることが重要です。直射日光に当てたり、食器洗い乾燥機に入れたりするのは厳禁です。
また、升は一度きりの使い捨てではなく、使い込むほどに味わいが増す道具です。節分の行事で使った後は、ぜひ日常の晩酌でも活用してみてください。福豆をそのまま入れて酒の肴にするのも一興です。炒り豆の香ばしさと木の香りは、純米酒のような米の旨味がしっかりした酒と非常に相性が良いのです。
おわりに:立春の訪れとともに日本酒を味わう
節分という節目を経て、季節は確実に春へと向かっています。2月11日のこの時期は、寒冷な気候の中で酒造りが最も熱を帯びる時期でもあります。
この時期に特におすすめしたいのが、火入れ(加熱殺菌)をしていない「生酒」や、春の雪を思わせる「にごり酒」です。
冬の寒さの中で醸されたばかりのフレッシュな味わいは、生命が芽吹く春のエネルギーそのものといえます。また、節分当日の「恵方呑み」や、翌日の「立春朝搾り」のように、特定のタイミングで飲む酒は、その希少性も相まって、より強い福を呼び込む縁起物として現代でも多くの愛好家に親しまれています。
今回ご紹介した「升」や「邪気払い」の知識は、日本酒を単なる飲み物としてではなく、日本の文化そのものとして楽しむための入り口です。由来を知って飲む一杯は、五感だけでなく知識や情緒も満たしてくれるはずです。
新しい春の始まりに、ぜひお気に入りの一本と升を用意して、福を呼び込むひとときを過ごしてみてはいかがでしょうか。

真名井 青 / ハクレイ酒造株式会社
純米大吟醸無濾過生原酒
リンゴのような甘くて爽やかな香り。原酒なのに軽やかな味わい。
繊細で消えゆく様なきれいなのど越し。
また飲みたくなる逸品です!