チーズに合うのはワインだけじゃない。日本酒ペアリングの新常識

チーズに合うのは、ワインだけじゃない
チーズをつまみにお酒を楽しむとき、ワインを思い浮かべる方が多いのではないでしょうか?確かにチーズとワインは歴史的にも地理的にも密接な関係を持つ組み合わせです。
しかし近年、日本酒とチーズを合わせるレストランやバーも増えています。日本酒造組合中央会をはじめとする業界団体や、チーズ専門店・ソムリエの間でも「日本酒との相性が良い」と言われるようになりました。
和のお酒と洋の食材という一見異質な組み合わせですが、両者にはある共通点があります。それは、どちらも発酵・熟成によって旨味や香りの成分が生まれる食品であることです。そのため、組み合わせによっては、味わいの厚みや余韻が重なりやすいと考えられます。
単なる好みだけでなく、製造過程や成分の観点から見ても、日本酒とチーズを合わせることは理にかなっていると言えます。
発酵・旨味・酸味の共通点
日本酒とチーズの相性が良いとされる理由は、主に以下の2つです。
① 発酵による旨味
日本酒は、米を蒸し、麹菌でデンプンを糖に分解し、その糖を酵母がアルコール発酵することで造られます。この製造過程の中で、タンパク質が分解されてアミノ酸などの旨味成分がつくり出されます。
一方のチーズも、牛乳や羊乳などを乳酸菌の力で発酵させ、固めて熟成させることで造られます。熟成が進むと、乳タンパク質が分解され、アミノ酸やペプチドが増加し、旨味やコクが強くなることがチーズ科学の研究で明らかになっています。
② 酸味
日本酒には乳酸、コハク酸、リンゴ酸などの有機酸が含まれます。なかでも乳酸は酒母造りに関わる重要な酸で、まろやかな印象を与える要素の一つです。チーズにも乳酸発酵由来の酸味があるため、組み合わせによっては酸味の質がなじみやすく感じられます。
知っておきたいペアリングの2つの考え方
実際に日本酒とチーズを合わせる際の指標として、2つの基本的なアプローチがあります。
① 味のボリュームを揃える考え方
軽やかな味わいのチーズには軽めですっきりした日本酒を、濃厚でコクのあるチーズには旨味のしっかりした日本酒を合わせることで、全体の「重さ」のバランスを取る方法です。どちらか一方だけが強すぎると、片方の良さを感じにくくなる場合があります。
② 味のコントラストを活かす考え方
塩味が強いチーズに甘口の日本酒を合わせて甘じょっぱさを楽しんだり、クリーミーなチーズにやや酸のある日本酒を合わせて後味をすっきりさせるといった「対比」を利用する方法です。好みは分かれますが、新しい味わいの発見につながりやすいアプローチとされています。
チーズのタイプ別・日本酒の選び方

あくまで一般的な傾向であり、個人の好みや具体的な銘柄によって相性は変わりますが、代表的なチーズのタイプごとに、日本酒を選ぶときの目安をご紹介します。
① フレッシュタイプのチーズ
モッツァレラ、リコッタ、カッテージチーズ、クリームチーズなどは、熟成を行わないため、ミルクのやさしい甘みと穏やかな酸味が特徴です。このタイプには、香りがやや華やかで口当たりが軽い吟醸系や、フレッシュ感のある酸味が感じられる生酒、スパークリングタイプの日本酒が合わせやすいとされています。
② 白カビタイプのチーズ
カマンベール、ブリーなどは、外側が白カビに覆われ、中はクリーミーで、熟成が進むと風味とコクが強くなります。このタイプには、米の旨味を感じられる純米系や、乳酸由来の酸味やコクがはっきりしたタイプ(生酛・山廃造りなど)が好相性とされています。
③ ハードタイプのチーズ
パルミジャーノ・レッジャーノ、コンテ、ミモレットなどは、水分が少なく、長期熟成により旨味が凝縮したタイプです。ナッツのような香りやカラメルを思わせる甘みを感じることがあります。このタイプには、旨味が強くやや濃いめの純米系や、熟成による香ばしさや複雑さを持った日本酒(古酒など)が合わせやすいと考えられています。
④ 青カビタイプ(ブルーチーズ)
ゴルゴンゾーラ、ロックフォール、スティルトンなどは、強い塩味と独特の香りを持つ個性的なチーズです。このタイプには、甘口寄りの日本酒やアルコール感と甘みがしっかりしたタイプ(貴醸酒など)を合わせることで、塩味と甘味のコントラストを楽しむアプローチが提案されています。好みが分かれやすいため、少量から試すことをおすすめします。
チーズをより美味しく味わうには、食べる15〜30分前に冷蔵庫から出し、室温に戻しておくことをおすすめします。香りが立ち、口どけも良くなるため、日本酒との相性もより分かりやすく感じられます。また、日本酒も冷酒、常温、ぬる燗と温度を変えることで、同じチーズとの組み合わせでも全く異なる味わいが楽しめます。気に入ったペアリングが見つかったら、温度も変えながら違いを確かめてみてください。
和の要素を加えた簡単アレンジ
チーズをそのまま合わせるだけでも十分楽しめますが、少し和の要素を加えることで、日本酒との味わいがより自然にまとまります。
① クリームチーズ × 塩昆布
サイコロ状に切ったクリームチーズに塩昆布を和えるだけの手軽な組み合わせです。昆布にはグルタミン酸、日本酒には発酵過程で生成されるアミノ酸が豊富に含まれており、どちらも旨味成分を多く持つ食材です。クリームチーズに塩昆布を合わせると、昆布の旨味と程よい塩気がチーズのコクに深みを加え、日本酒の旨味成分と相乗効果を生み出します。好みでごま油をひと回しすると、香ばしさが加わってさらに美味しくなります。
② 白カビチーズ × 醤油・わさび
カマンベールなどの白カビタイプのチーズに、ごく少量の醤油を垂らすアレンジがおすすめ。醤油は発酵の過程でアミノ酸(旨味成分)や香ばしい香気成分が豊富に生まれる調味料で、日本酒も同じく発酵によってアミノ酸や有機酸を多く含むようになります。チーズのクリーミーなコクに醤油の旨味と香ばしさが加わることで、日本酒との味の共通項が増し、口の中で一体感のある組み合わせに。さらに、わさびを少し加えると、爽やかな辛味がアクセントとなり、純米系の日本酒との相性がさらに良くなります。
これらのアレンジは、どれも家庭にある調味料で簡単に試すことができ、チーズを「洋のおつまみ」から「和のおつまみ」へと自然に変化させてくれます。
自分好みのペアリングを見つけるために
味覚の感じ方には個人差があるため、必ずしも「この組み合わせが正解」というものはありません。今回ご紹介した考え方を参考に、ご自身の好みに合った組み合わせを探してみてはいかがでしょうか。自分好みの新しい発見があるかもしれません。
日本酒もチーズも、製法や熟成期間によって無限の広がりを持っています。「このお酒には、どんなチーズが合うだろう?」と想像を膨らませながら、ご自身の好みに合った組み合わせを探してみてはいかがでしょうか。いつもの晩酌の時間が、きっと新しい発見に満ちた特別なひとときになるはずです。

七色 nanairo
純米吟醸
果実のような華やかな香りと心地よい「とろみ」、ほのかなガス感が特徴です。
よく冷やして飲むことで爽やかさが引き立つため、フレッシュチーズとのペアリングに最適です。